日本語のない形
ない形
この記事は、Settemila Lingueの日本語文法ツリーの一部です。
まず押さえること
ない形は、「行かない」「食べない」のように、動作をしないことなどを表す動詞の形です。 五段動詞は最後の音をア段に変えて「ない」を付け、一段動詞は最後の「る」を「ない」に替えます。「買う→買わない」「する→しない」「来る(くる)→来ない(こない)」「ある→ない」は、特に注意して覚えましょう。
ない形で何が言えるか
「明日は働かない」「魚は食べない」「答えが分からない」。ない形を使うと、予定や習慣、今の状態について「そうではない」と伝えられます。動詞(動作や状態を表す言葉)の否定を、丁寧な「ません」だけでなく、普通体(「です・ます」を使わない話し方)でも言えるようになるのが、この学習の出発点です。
ない形は、初級の後半に当たるA2段階で身に付けたい基本です。ただし、親しい人との会話に使うだけではありません。「分からない言葉を調べます」「忘れないようにメモします」のように、丁寧な文の途中にも必要になります。文の最後が丁寧でも、その途中まで全部「ます」にするわけではありません。
まずは「辞書形からない形を作る」「文の最後と、言葉を説明する部分で使う」の二つを目標にしましょう。辞書形とは、辞書の見出しになる「書く・食べる・する」などの形です。後半では、ない形を土台にした依頼、義務、目的の表し方や、似た形の使い分けも扱います。
ない形の作り方と基本の仕組み
三つの動詞のグループ
日本語の動詞は、活用(意味や後に続く言葉に合わせて形が変わること)の仕方によって、大きく三つに分けられます。初めて学ぶときは、グループの名前よりも、実際の変化を声に出すほうが覚えやすくなります。
| グループ | 辞書形 → ない形 | 作り方 |
|---|---|---|
| 五段動詞 | 書く → 書かない | 最後のウ段の音を、同じ行のア段の音に変えて「ない」を付ける |
| 一段動詞 | 食べる → 食べない | 最後の「る」を取って「ない」を付ける |
| 不規則な動詞 | する → しない/来る → 来ない | 決まった変化として覚える |
「五段動詞」は教材によって「第一グループ」、「一段動詞」は「第二グループ」と呼ばれます。名前が違っても、ここで学ぶ作り方は同じです。
五段動詞:最後の音をア段に変える
「ウ段」は「う・く・す・つ・ぬ・ぶ・む・る・ぐ」のように、母音が「う」の音です。ない形では、最後の一文字に対応するア段の音を使います。ただし、「う」で終わる動詞だけは「わない」になります。
| 辞書形の終わり | 辞書形 | ない形 |
|---|---|---|
| う → わ | 買う | 買わない |
| く → か | 書く | 書かない |
| ぐ → が | 泳ぐ | 泳がない |
| す → さ | 話す | 話さない |
| つ → た | 待つ | 待たない |
| ぬ → な | 死ぬ | 死なない |
| ぶ → ば | 遊ぶ | 遊ばない |
| む → ま | 読む | 読まない |
| る → ら | 帰る | 帰らない |
「会う→会わない」「言う→言わない」「使う→使わない」も同じです。「あわない」「いわない」「つかわない」と、音でも確かめてください。
「行く」は「行かない」です。別の形で「行って」という特別な変化を学んでいても、ない形では「く→か」の規則どおりになります。
一段動詞:最後の「る」を取る
一段動詞は、最後の「る」を外し、残った部分に「ない」を付けます。途中の音は変えません。
| 辞書形 | ない形 |
|---|---|
| 食べる | 食べない |
| 見る | 見ない |
| 起きる | 起きない |
| 寝る | 寝ない |
| 借りる | 借りない |
| 教える | 教えない |
| 忘れる | 忘れない |
「る」で終わる動詞が、すべて一段動詞になるわけではありません。「帰る・入る・走る・切る・知る・要る」は五段動詞なので、「帰らない・入らない・走らない・切らない・知らない・要らない」です。
「る」の前がイ段やエ段の音なら一段動詞の可能性がありますが、それだけでは決められません。「起きる→起きない」と「切る→切らない」のように、新しい動詞を覚えるときはない形も組にすると確実です。「着る→着ない」と「切る→切らない」のように、読みが同じでも変化が違う動詞もあります。
「する」「来る」と「ある」
次の三つは、よく使うので早い段階で覚えましょう。
| 辞書形 | ない形 | 注意点 |
|---|---|---|
| する | しない | 「すらない」にはしない |
| 勉強する | 勉強しない | 「〜する」で終わる動詞も同じ変化 |
| 来る(くる) | 来ない(こない) | 同じ漢字でも読みが「く」から「こ」に変わる |
| 持って来る(もってくる) | 持って来ない(もってこない) | 「来る」の部分が同じように変わる |
| ある | ない | 標準的な言い方では「あらない」にしない |
| いる | いない | 人や動物がいる場合の否定 |
「机の上に本がない」と「部屋に誰もいない」では、もとの動詞が違います。物などが存在する「ある」は「ない」、人や動物などが存在する「いる」は「いない」です。
「ます形」から考える場合
「食べます」「書きます」のような、ます形を先に覚えていることもあるでしょう。その場合も、動詞のグループを確認してから変えます。
- 一段動詞:食べます → 食べない。最後の「ます」を「ない」に替えます。
- 五段動詞:書きます → 書かない。「ます」の直前の音をイ段からア段に変えます。
- 五段動詞の「う」終わり:買います → 買わない。「買いない」ではありません。
- 不規則な動詞:します → しない、来ます(きます)→ 来ない(こない)。
「ます」を取りさえすれば、いつでも「ない」を付けられるわけではありません。迷ったら、辞書形とグループを確かめましょう。
ない形は、過去以外の否定を表す
「ない」は、現在の習慣や状態だけでなく、これからの予定にも使います。この現在と未来をまとめた範囲を、非過去と呼びます。時間は「毎朝」「今」「明日」などの言葉や、会話の流れで判断します。
- 毎朝、コーヒーは飲まない。――普段の習慣。
- 今は理由が分からない。――現在の状態。
- 明日は出かけない。――これからの予定。
過去にしなかったことは「なかった」にします。「昨日は出かけない」ではなく、昨日出かけなかったという事実なら「昨日は出かけなかった」です。
| 時間と意味 | 普通体 | 丁寧な言い方 |
|---|---|---|
| 非過去・否定 | 行かない | 行きません/行かないです |
| 過去・否定 | 行かなかった | 行きませんでした/行かなかったです |
基本の形は「ない→なかった」「ない→なくて」「ない→なければ」のように変わります。後ろの表現に合わせた変化は、後半で確認します。
場面で分かる例文
日本語を日本語で学ぶため、次の表では訳の代わりに、意味や場面をやさしい言葉で示します。太字の部分だけでなく、前後の言葉から「何を否定しているか」を考えてみましょう。
| 例文 | 意味・場面の言い換え | 注目する点 |
|---|---|---|
| 今日は行かない。 | 今日、その場所へ出かける予定はない。 | 親しい相手への予定の説明 |
| 平日はお酒を飲まない。 | 仕事のある日は、お酒を飲む習慣がない。 | 繰り返し行うことの否定 |
| このペンはもう使わない。 | これからは別のペンを使う。 | 「使う」は「使わない」 |
| 妹は朝ご飯を食べない。 | 妹には朝ご飯を食べる習慣がない。 | 一段動詞の否定 |
| 今日は料理をしない。 | 今日は自分で食事を作るつもりはない。 | 「する→しない」 |
| 田中さんは今日、来ない。 | 田中さんが今日は来る予定ではない。 | 「来ない」は「こない」と読む |
| 財布の中に現金がない。 | 財布にお札や硬貨が入っていない。 | 「ある」の否定 |
| 今、部屋には誰もいない。 | 部屋に人が一人もいない。 | 「いる」の否定 |
| まだ食べていない。 | 今までのところ、食事は済んでいない。 | 「食べている」を否定する形 |
| 分からないことがあります。 | 理解できていないことがいくつかあります。 | 文の途中はない形、最後は丁寧な形 |
| 電車が来ないので、少し遅れます。 | 電車が来るのを待っていて、時間どおりに着けません。 | 遅れる理由を説明する |
| 言わないでください。 | そのことを口にしないでほしいです。 | 相手にしないよう頼む |
| 忘れないように、予定を手帳に書きます。 | 予定を覚えておくために、手帳に記録します。 | 望ましくないことを防ぐ |
| 明日は早いから、もう寝ない? | 明日に備えて、そろそろ寝ようと誘っている。 | 形は否定でも、意味は誘い |
よくある間違い
1.「う」をそのまま「あ」に変える
- 誤り: このかばんは買あない。
- 正しくは: このかばんは買わない。
- 理由: 「う」で終わる五段動詞は「わない」です。「会わない・言わない・思わない」もまとめて練習しましょう。「買はない」と書くのも誤りです。
2.「る」で終わる動詞をすべて同じにする
- 誤り: 今日は早く帰ない。
- 正しくは: 今日は早く帰らない。
- 理由: 「帰る」は五段動詞なので「る→ら」に変えます。一方、「食べる」は一段動詞なので「食べない」です。見た目だけで判断せず、グループを確かめます。
3.「来ない」の読み方を変えない
- 誤り: 来ないを「くない」「きない」と読む。
- 正しくは: 来ないは「こない」と読む。
- 理由: 「来る・来ます・来ない」は、それぞれ「くる・きます・こない」です。漢字だけで覚えず、音と一緒に練習してください。
4.存在を表す「ある」と「いる」を混同する
- 誤り: 会議室に誰もない。
- 正しくは: 会議室に誰もいない。
- 理由: 人がその場所にいるかどうかを言うので、「いる→いない」を使います。「会議室に椅子がない」なら「ある」の否定です。「ある」のない形を「あらない」としないことも大切です。
5.「しない」と「まだしていない」を同じに扱う
- 意図に合わない例: 「昼ご飯はもう食べましたか」に、これから食べるつもりで「まだ食べない」と答える。
- 伝えたい意味なら: まだ食べていません。/まだ食べていない。
- 理由: 食事が済んだかどうかなら「まだ〜ていない」を使います。「まだ食べない」も文としては正しいですが、「今は食べず、もう少し後にする」という判断や予定を表しやすい言い方です。
6.名詞の前で「ません」を使う
名詞とは、「本・人・こと」のように、物や人、事柄などを指す言葉です。その前に説明を置くときは、文全体の丁寧さと分けて考えます。
- 誤り: 私が読みません本を、友達にあげます。
- 正しくは: 私が読まない本を、友達にあげます。
- 理由: 「どんな本か」を説明する部分は「読まない本」です。最後を「あげます」にすれば、文全体を丁寧に言えます。
使うときの注意
「ない」は失礼な形なのか
「行かない」「分からない」だけで言い切ると、親しい相手との会話や独り言に合う話し方になります。初対面の相手や仕事上の相手には、「行きません」「分かりません」のほうが無難なことが多いでしょう。
ただし、「ない形を使ったら失礼」と一律には考えません。「分からないことがあれば、聞いてください」のように、丁寧な文の中でもない形は普通に使われます。また、「知らない」と短く言い切れば冷たく聞こえることがありますが、それは形だけでなく、声の調子や説明の有無にもよります。
「ないです」も日常会話で広く使われる丁寧な言い方です。「今日は行かないです」より「今日は行きません」のほうが、改まった場面には使いやすいでしょう。「行かないです」をすべて誤りとする必要はありません。
否定しても、「は」に必ず変えるわけではない
「肉を食べない」は、肉を食べるという行動を否定します。「肉は食べない」は、肉を話題にしたり、魚や野菜などとの違いを示したりしやすい言い方です。
- 肉を食べない人向けの料理です。――どんな人向けかを説明する。
- 魚は食べるけれど、肉は食べない。――魚と肉を対比する。
「を」「は」は、言葉どうしの関係や話題を示す助詞(言葉の後ろに付いて働きを示す短い語)です。否定文だからといって、すべての「を」を「は」に替える必要はありません。
「ない?」は否定の確認にも誘いにもなる
「明日、来ない?」は、「明日は来ないの?」と予定を確認する場合も、「明日、来てみない?」と誘う場合もあります。場面、声の調子、前後のやり取りで意味が決まります。
誘いをはっきりさせたいときは「一緒に昼ご飯を食べない?」のように「一緒に」を足せます。丁寧に誘うなら「一緒に昼ご飯を食べませんか」が使えます。否定形だから、いつでも「しない」という意味になるとは限りません。
もう一歩先へ:ない形から広がる表現
ここからは、基本のない形に慣れてから読めば十分です。全部を一度に使おうとせず、まず「どの形からできているか」を見分けましょう。
「ないで」と「なくて」
どちらも動詞の否定を後ろの文につなげますが、同じ意味になるとは限りません。
| 例文 | 意味の言い換え | 主な働き |
|---|---|---|
| 朝ご飯を食べないで、家を出た。 | 朝食を取らずに出かけた。 | ある動作をしないまま、別の動作をする |
| 答えが分からなくて、困った。 | 答えが分からないため、困った。 | 後ろの状態が生じた理由を示す |
| ここでは写真を撮らないでください。 | ここでの撮影を控えてほしい。 | しないように頼む |
| 今日は急がなくていい。 | 今日は急ぐ必要がない。 | しなくてもよいことを表す |
「食べないで出かけた」は「食べずに出かけた」に近い意味です。「分からなくて困った」は、「分からないので困った」と言い換えられます。まずこの対比を覚えると役に立ちます。
ただし、後ろに何を続けるかも大切です。依頼は「撮らないでください」で、「撮らなくてください」とは言いません。最初は「ないでください」「なくていい」など、まとまった表現を例文と一緒に覚えましょう。
義務と不要:「なければならない」と「なくてもいい」
「行かなければならない」は、行く必要があるという意味です。「行かない」と「ならない」の両方に否定がありますが、全体としては義務、つまり「する必要があること」を表します。
- 明日は早く起きなければならない。――早起きが必要だ。
- 明日は早く起きなくてもいい。――早起きする必要はない。
会話では「起きなきゃ」「起きなくちゃ」と短くすることがあります。「明日は早いから、もう寝なきゃ」のような形を聞いたら、「寝なければならない」の意味だと考えられます。改まった文章では、短くしない形を使うのが基本です。
「なくてもいい」は「してはいけない」ではありません。「来なくてもいい」は来る必要がないこと、「来てはいけない」は来ることが禁止されていることです。
「ないように」と「ないことにする」
「忘れないようにメモする」は、忘れるという望ましくない結果を避けるための行動を表します。「ように」の前にない形を置くと、このような目的を表せます。
一方、「夜はお菓子を食べないことにした」は、自分で決めたことです。「食べないようにしている」なら、そうなるよう普段から気を付けている、という意味になります。
- パスワードを忘れないように、安全な方法で保管する。――忘れるのを防ぐ目的。
- 平日の夜はお菓子を食べないことにした。――自分で決めた方針。
- 寝る前はスマートフォンを見ないようにしている。――普段から心掛けていること。
同じない形でも、後ろに何を続けるかで、予定、目的、決定、習慣が表せます。
「行かないと思う」と「行くと思わない」
「行かないと思う」は、「行かないだろう」という判断を述べます。「田中さんは明日は行かないと思います」なら、田中さんが行かないと予想しています。
「行くと思わない」は、「行く」という考えを持っていないことを述べます。文脈によっては、同じく行く可能性が低いと伝わることもありますが、否定を置く場所が違います。「行かないと思う」なら行くことを否定し、「行くと思わない」ならそう思うことを否定しています。予想を伝える段階では、まず「〜ないと思います」を使えるようにしましょう。
「ず」「ぬ」「ん」を見かけたら
ない形に慣れると、文章や会話に出てくる別の否定表現も理解しやすくなります。
- 何も言わずに帰った。――何も言わないで帰った。
- 思わぬ知らせが届いた。――予想していなかった知らせが届いた。
- そんなことは知らん。――そんなことは知らない。
「ず」「ぬ」は文章や決まった言い回しで見られます。「ん」は地域の話し方やくだけた話し方などに現れ、相手や場面を選びます。初めから自分で使う必要はありません。「する」は「しず」ではなく「せず」になるなど、ない形の「ない」を単純に取り替えるだけでは作れない形もあります。
また、「行かないわけではない」のように否定を重ねると、「行く可能性はある」など、断定を避ける意味が生まれます。単純な「行く」とは響きが違うため、基本の形と分けて学ぶとよいでしょう。
練習のこつ
1.辞書形・ない形・過去の否定を三つ一組にする
毎日五つほどの動詞で「買う→買わない→買わなかった」「食べる→食べない→食べなかった」と声に出します。形を作るだけでなく、「今日は買わない」「昨日は買わなかった」のように時間の言葉を添えましょう。
確認問題は「話す・待つ・帰る・借りる・来る」です。ない形は「話さない・待たない・帰らない・借りない・来ない(こない)」になります。「る」の前だけで判断せず、グループも確かめてください。
2.自分の予定と、まだ済んでいないことを分けて書く
「今日はしないこと」を二つ、「まだしていないこと」を二つ書きます。例えば「今日は買い物をしない」と「まだ買い物をしていない」です。前者は予定や判断、後者は今までに済んだかどうかを表す、と違いを説明できれば理解が深まっています。
3.同じ内容を、相手に合わせて言い換える
「今日は行かない」「今日は行きません」「今日は行かないことを伝えました」を並べて読みます。文の最後では相手に合わせて丁寧さを選び、文の途中では必要なない形を保つ練習です。会話を聞くときも、「ない」が文末なのか、後ろの言葉につながっているのかを一つずつ拾ってみましょう。